昨年末に面白い新書が出版されているので、受験を終えた数学に自信のある中学3年生に向けて紹介しようと思います。


 
 それは、永野裕之「中学生からの数学「超」入門 ─起源をたどれば思考がわかる」(筑摩書房)です。

はじめに

第1章 図形―幾何学
哲学は幾何学からはじまった 
パスカルの説得術について 
脅威のベストセラー『原論』の定義と公理 
情報を整理し活用する「分類」 
さまざまな視点―水平思考を磨く 
「良い形式」を身につける―証明の進め方(中2) 
「正しい推論」について 
証明の初歩―三角形の合同条件(中3) 
相似の問題演習 
中学数学の到達点―三平方の定理(中3) 
多くの定理が成立する美しい図形―円(中3) 
円の問題演習 
「逆を見る視点」を磨く―面積と長さ(中1) 
「立場を変えて見る視点」を磨く―三平方の定理の利用(中3)

第2章 数と式―代数学
西のギリシャ、東のインド 
1000年も受け入れられなかった「負の数」 
古代オリエントで産声を上げた「代数学」 
代数学の2人の「父」 
方程式を解くために必要なこと 
算数と数学の違い 
解の公式をめぐる数学の挑戦 
演繹的思考の功罪 
数を概念で捉える―負の数(中1) 
(-1)×(-1)=+1の理由 
見えなくても存在が認められた数―平方根(中3) 
『原論』にも通じる正しいプロセス―1次方程式(中1) 
代入法こそ未知数消去の王道―連立方程式(中2) 
中学数学で最難関の式変形に挑む―2次方程式(中3) 
モデル化の練習―方程式の応用(中1から中3)

第3章 関数―解析学
「変数」との出会い 
デカルトの「革命」―解析幾何学の誕生 
オイラーから始まった「解析学」 
関数は「函数」だった 
因果関係について 
1対1対応の使い方―「計算」の語源が「小石」である理由 
変数との出会い―関数(中1から中3) 
関数を調べる際の基本―変化の割合 
原因をつきとめる―関数の利用(中1から中3) 
変化を目撃する―関数とグラフ(中1から中3)

第4章 資料の活用―確率・統計学
確率論黎明期の論争① 
確率論黎明期の論争② 
確率論黎明期の論争③ 
「ラプラスの悪魔」について 
統計家は最もセクシーな職業? 
近代統計学の父 
ナイチンゲールと統計学 
ディーパーティーと推測統計 
ランダムの難しさと大切さ 
「同様に確からしいか」を確認する―確率(中2) 
データの特性をつかむ―資料の整理(中1) 
部分から全体を推し量る―標本調査(中3)

おわりに 
参考文献 
関連年表 

 中学3年間で学習する内容を「学年別」ではなく「分野別」に分けて、「数学の歴史」をとおして、数学を学ぶ意義を分かりやすく解説したのがこの本です。

 「数学の歴史」を勉強することは、高等学校に進学したとしてもあまりないし、大学で「数学史」を専攻する大学の先生も圧倒的に少数派であるのが現実です。つまり、「数学史」をこれからもあまり学習することなしに「数学」の勉強をすることになるわけです。そういう意味において、本書で中学校で学習する数学の分野を通して「数学史」が勉強できることは実に貴重なことだと言えます。


 「数学」の試験では、与えられた問題に解答を与えることが求められます。確かに正解を解答欄に書くことは大切ですが、学校や塾の授業や宿題などで行う問題演習をとおしてどのように役に立っているのか(どのような力が身に付いているのか)を改めて考えると、明確に答えられる人は意外に少ないのではないでしょうか。連立方程式を日常生活で使うこともないだろうし、買い物の時に因数分解を使って買い物をする人はまずいないだろうと思います。数学を通して何が身に付いているのかを知るにもこの本はよい書籍だと思います。


 この本には一部問題が載っていますが決して多くありません。載っている問題は、筆者がする「数学についてのハナシ」を分かりやすくするために載っているにすぎません。問題を解いて正解を出すことがこの本の本質ではありません。しかし、受験を終えた中学3年生の皆さんであれば挑戦して解いてもらいたいところです。その方が深くこの本を味わうことができると思います。


 
 ぜひ春休み中にこの本を手に取って、面白い数学の世界を味わってもらいたいと思います。